大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和29年(あ)2757号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

検察官宮本増蔵の上告受理申立理由について。

本件犯行当時の関税法八三条一項は、犯人以外の第三者の所有に属する同条所定の貨物、船舶等でも、それが犯人の占有に係るものであれば右所有者の善意、悪意に関係なく、すべて無条件に没収すべき旨を定めたものではなく、右所有者たる第三者が犯罪行為の行われること、または犯罪行為の用に供せられることをあらかじめ知っていた場合に没収できる趣旨に解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二六年(あ)第一八九七号、同三二年一一月二七日大法廷判決)。原審の認定したところによれば、所論豊成丸は本件犯行当時被告人等の占有に属していたものであるが、その所有権は第三者である島向磯吉に属し、同人がその占有を被告人等に移す際、右豊成丸を本件犯罪の用に供することの事情につき善意無過失であったというのであり、原判決は、かくのごとき場合には右豊成丸を関税法八三条一項により没収しうべき限りでないと判示しており、右判断は、前記当裁判所の判例に照らし正当である。それ故所論は採るを得ない。

よって刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。

右は裁判官斎藤悠輔の少数意見を除きその余の裁判官の一致した意見によるものである。

裁判官斎藤悠輔の少数意見は、本件行為当時の関税法八三条一項は、犯人に対し、同条所定の犯罪行為の用に供した船舶の使用、収益を禁止する趣旨であって、犯人以外の船舶所有者からその所有権を剥奪する趣旨に出たものではなく、従って本件船舶もこれを被告人から没収することができることは昭和二六年(あ)第一八九七号同三二年一一月二七日大法廷判決における同裁判官の反対意見のとおりである。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例